前回は石器時代からグレゴリオ聖歌まで見てきました。
そして今回の舞台は12世紀のパリのノートルダム楽派の話です!この時代も前回同様『クラシック』ではありませんが、ここで紹介するノートルダム楽派から『多声の音楽/ポリフォニー音楽』が発展しました。
・オルガヌムの誕生
・ノートルダム楽派の重要な作曲家と曲が分かる
・アルス・ノヴァの時代の代表的な作曲家の曲と共に解説
前回の記事はこちら。
【ノートルダム楽派】クラシック(西洋音楽)の歴史を重要な人物や音楽と共に紹介②
ヨーロッパの12世紀末という時代
音楽の話の前にすこしだけその時代背景を見てみましょう!
特にこの時代の音楽は教会と一心同体で結びついているので、知っているとさらに面白いです。
1099年第1回十字軍がエルサレムに進軍
この時代の非常に大きな出来事といえば第1回十字軍です。この絵は14世紀頃に十字軍のエルサレムでの戦いを描いたものです。
十字軍って何?
十字軍っていうのは、キリスト教の聖地エルサレムが、イスラム教徒に占領されていたものを奪還した戦いです。
1095年にローマ教皇ウルバヌス2世の呼びかけにより、始められた軍事行動です。
でもエルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖市なんですが、そこらへんはここでは触れません。とりあえず、カトリック教会の諸国が、聖地エルサレムをイスラム教諸国から奪還することを目的に派遣した遠征軍の戦いであるということです。
ただ、この『十字軍』はヨーロッパにおいては黒歴史の1つになっています。なぜかというとエルサレムまでの長い長い道すがら、十字軍は暴徒のようになって、略奪、虐殺などを繰り返したからです。遥かに長い過酷な状況でおかしくなってしまったのでしょう。
この絵は第1回十字軍の主要な攻城戦の一つ、アンティオキア攻囲戦を描いたものです。
この絵もアンティオキア攻囲戦を描いた15世紀のものですが、絵が可愛くて好きです。城ちっちゃ!
ここらへんの話もオリラジの中田さんのこの動画で面白く見れます。
それとこの動画の中で『教皇に派遣された十字軍は勝てなかった』と言っていますが、最初の一回だけ勝利しました。
ゴシック教会が続々と建築される
そしてこの時代にはゴシック建築(英語:Gothic Architecture)が花開いた時代でもあります。
ゴシック建築はフランスを発祥とする建築様式です。
サン=ドニ大聖堂(1137-1144年建築)
煌びやか!このような豪華な教会はカトリック。
ノートルダム大聖堂(1163年-1225年完成)
1163年に現在にみられる建築物が着工され、1225年に完成しました。
ノートルダムで思い出すのはディズニーの『ノートルダムの鐘』という人も多いのではないでしょうか?
2019年には火災で尖塔などを燃えるなどがありましたが、テクノロジーでちゃんと復元できるそうです。良かった。
エッフェル塔とノートルダム大聖堂はパリでも有名ですからね、そこで数々の物語があったんだろうな。。。
そして、今回の『ノートルダム楽派』というのはその名の通り、パリのノートルダム大聖堂を中心に展開しました!
ノートルダム大聖堂は1つではない
ちなみにこのノートルダム大聖堂があるのはパリだけではありません。フランスの各地の他、ベルギー、ルクセンブルク、カナダなどにもあります。
ノートルダム楽派の音楽
なんとなくの歴史も分かったと思います。ここからはその『ノートルダム楽派』の音楽を聴きながら見て行きましょう!
ノートルダム楽派の年代
ノートルダム楽派の音楽は約1160ー1250年の間、90年間に作られたものとされています。
90年間同じ様式の音楽が続くって今の時代では考えられないですよね。生まれてから死ぬまで同じ音楽。。。
といっても、中世での音楽や教会は今の私たちのように気軽に聴いたり見たりするものではなく、神々の圧倒的な力を感じるためのものでした。
レオナン/Léonin と ペロタン(ポロタン)/ Pérotin.
この可愛い響きの二人がノートルダム楽派の重要な作曲家です。
レオナン と ペロタン。。。ポケモンとか、ゆるキャラにいそう。しかもコンビ組んでそう。で、レオナンが先輩でペロタンが後輩です。
名前に(ポロタン)としたのはそのようにも呼ばれるからです。
レオナンが活動したのは12世紀後半で、ペロタンが活動したのは12世紀末から13世紀初頭なので、レオナンはポロタンの大先輩になるわけですね。
今、上で紹介した音楽を聴いているかは分かりませんが、このアルバムにはこの二人の作曲した曲と作者不明の曲が収録されています。
レオナン/ Léoninのオルガヌム大全
レオナンが何をやったかと言うと、様々な教会儀式のためのオルガヌムを体系的にまとめました。これを『オルガヌム大全』と言います。オルガヌム大全に関して芸大の方がまとめたものがあったので貼っておきます。
オルガヌムって何?
オルガヌムというのは、グレゴリオ聖歌に対して完全四度または完全五度上を歌われる自由に考えられた声部です。
レオナンの音楽を聴いてみましょう。低音部がグレゴリオ聖歌でその上にオルガヌム声部がのっています。ここでは2声です。
レオナンの曲をさらに拡張したペロタン
ペロタンはレオナンの曲をさらに拡張しました。この曲は上で紹介した曲と同じですが、4声になっています。圧倒的に発展してますね。
3度 ダメ!絶対!
音楽を聴くと私たちの知っているクラシック音楽と全く違う雰囲気であることに気がつくと思います。それは何故かと言うと、この時代は3度の音。つまりドミソだったらミの音を入れてはいけなかったからです。
楽典などを読んだことがある人は知っていると思いますが、これは『空虚5度』と言ってダメ!と書かれてます。でもこの時代は 3度 ダメ!絶対! の時代でした。
2拍子もダメ!絶対
この時代は3度もダメながら、2拍子もダメでした。音楽を聴いても分かるとおり今の言い方だったら6/8拍子で歌われています。
なぜかというと、当時の音楽は聴いて楽しむものではなく、神の存在を感じるもので『3』という数字、キリスト教の三位一体(神と子と聖霊)の考え方が大事だったからです。この話を書くとながーくなるので、本を読んでいただく方向性で。。。
いずれにせよ、この時代には2拍子はありませんでした。
洗足学園音楽大学による記譜法の解説
洗足学園音楽大学のページで実際の記譜法を見ることが出来ます。
同時代に別の場所でもポリフォニー音楽は発展していた
また、南フランス・リモージュのサン・マルシャル楽派でも多声の音楽/ポリフォニー音楽は個別に発展したとも言われています。ここでは説明しませんが、そういうものもあるんだな、と思っていただければ。当時は連絡手段が乏しいですからね。各地でそれぞれの文化が生まれていました。
中世のオルガヌムを模倣したドビュッシーの音楽
この曲はドビュッシーもピアノ曲で、日本語で『沈む寺』と言われる曲ですが、この冒頭がオルガヌムを模倣したものと言われています。本『西洋音楽史』の中では、
ドビュッシーに中世時代に対する学術的な知識があったはずはないが
と書かれていますが、おそらくオルガヌムを学術的にまとめたのが、ドビュッシーの死後だからだと思われます(これは僕が文面から読み取った想像です)。
ドビュッシーは、教会で聴いた音楽を学術的な知識とは関係なく模倣したのでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。とうとうこの時代で音楽は多声になりました。
そして次は中世末期の音楽になります。この時代になるとキリスト教から少しずつ離れ、音楽が複雑化していきます。
このお話はこの本などを参考に書きました。
この本はその名の通り西洋音楽の歴史をザーッと追っていく本です。さすがに細部までは無理ですが、けっして浅く追っていくわけではなく、時代時代の音楽の重要な点を、時代背景なども含めて書いています。すごく面白いのでおすすめです。