ミュージック・コンクレートを日本語に訳せば『具体音楽』です。
楽器を使って演奏されるのが、音楽の王道?ですが、その名の通り具体的な音(人や動物の声、鉄道や都市などから発せられる騒音、自然界から発せられる音、電子音、楽曲など)を録音、加工し、再構成を経て創作するのが、ミュージック・コンクレートです。要は電子音楽です。
電子音楽の初期の作品ですが、音は今のノイズに負けず劣らず良いです!
実際に歴史的に重要な音楽を紹介してますので、聴きながら読んでもらえれば。
【電子音楽】具体的な音を音楽に使う!ミュージック・コンクレートの考え、歴史的な作品を紹介
ミュージック・コンクレートの提唱者 – Pierre Schaeffer/ ピエール・シェフェール
当時は、今のようにパソコンは勿論無かったし、テープですら大衆的なものではありませんでした。音楽と言ったら、楽器で演奏するものです。
しかし、その概念を壊したのが、『ピエール・シェフェール』です。下の音楽が1948年に完成した、初のミュージック・コンクレート作品 Cinq études de bruits (Five Studies of Noises)です。
ピエール・シェフェール – Cinq études de bruits (Five Studies of Noises – ノイズの5つの習作)
最初期の作品は、まだ実験段階ということもあるし、録音機器も良くないのか、はたまたYoutubeに上がっている音が悪いだけなのかは分からないのですが、そこまで良い音ではないと思います(僕には)。
でも、その11年後、1959年の作品 Etude aux objets になると、電子音楽として音が良くて、僕は凄く好きです。
Pierre Schaeffer – Etude aux objets
今ではミュージック・コンクレートは『当たり前』だけど、良い音なのか?
上で『電子音楽として音が良くて、、、』と書きましたが、これが僕にとっては最重要のポイントです。現代はDAWソフトがあれば、上で紹介したような作品はすぐに作れます。
でも、やっぱり音が違う。この時代は、オープンリールのテープを切った貼ったして、繋いで作品を作りました。下で紹介しますが、作曲家 武満徹もミュージック・コンクレート作品を作っていました。本 『武満徹・音楽創造への旅』で、その制作の苦労を語っています。この話は柴田南雄の作品についてなんですが、
二十一分の作品を作るために、素材集めなどの準備が二ヵ月、スタジオで要した編集作業時間は、約百八十時間。その間十名のスタッフが常時働き、徹夜の連続だったという。
使用したテープは七インチリールで全部で約百巻、五十時間分にのぼった。使用した録音機は、二トラックの据置型二台、モノラル据置型二台、携帯用一台それに円盤式録音機二台だった。
最終的に仕上ったテープは長さ一万八千インチだったが、それは、一千ヵ所で切りつなぎ編集されたものだった。テープ速度は毎秒十五インチだったから、ほとんど一秒おきに切りつなぎされていたことになる。
そのマザーテープそれ自体が、素材音をさまざまに加工したもので、そこにくるまでのプロセスにも大変な時間がかかっていた。” — 武満徹・音楽創造への旅 (文春e-book) by 立花隆
別に苦労したから良い音だ!っていうわけじゃないのですが、上の Etude aux objets を聴いても、パソコンでは作れない音でやっぱり良いな!と思います。今の電子音楽を作ってるアーティスト(テクノやハウスも含め)が、オープンリールのカセットを買ったり、アナログマシンを使う理由です。
ピエール・アンリ/ Pierre Henry – ひとりの男のための交響曲 / Symphonie pour un homme seul
もう一点紹介したいのが、ピエール・アンリの作品で、ピエール・シェフェールとの共作です。制作は1950年。ミュージック・コンクレート初期の作品で、よく例に出される作品です。
ピエール・シェフェールのCD
Stockhausen/シュトックハウゼンと電子音楽
数々の名作を作った作曲家 シュトックハウゼンも、この時期にミュージック・コンクレートの作品制作を始めています。上で紹介したシェフェールのスタジオの使用を許可され始めて作ったテープ音楽がこちらの『ETUDE』です。
Stockhausen – Studie Ⅰ/ II(1953-54)
その後、具体音を組み合わせたものではなく、サイン波だけで作られた電子音楽を作り始めました。
着実に音楽の世界が拡張されていってるのが分かります。
このサイン波(純音)に興味のある方は、こちらの記事もどうぞ。
Stockhausen – Gesang der Junglinge(少年の歌)(1955-56)
シュトックハウゼンのミュージック・コンクレート作品で、もう一曲紹介したいのが、こちら『Gesang der Junglinge(少年の歌)』です。
今までの作品は、Etudeの名前の通り習作で、この作品が最初の本格的な電子音楽(テープ)作品です。
各々の作品は、適当にテープを組み合わせて『なんとなく、いい音だなあ。。。』って、作ったわけじゃなく、それぞれがしっかりと作曲されています。そこら辺を知りたい方は、この本に全て書かれてます。シュトックハウゼンの作品を学びたいなら超おすすめの本です。
ミュージックコンクレート、日本に到来!
フランス発のミュージック・コンクレートは日本にも上陸しました。実は作曲家 黛敏郎さんがフランス留学中に、上で紹介した『ひとりの男のための交響曲 / Symphonie pour un homme seul』の世界初演を聴くことになるんです。
その後作曲されたのが、この曲です。ここらへんの日本のミュージック・コンクレート事情が上でも紹介した『武満徹・音楽創造への旅』で書かれています。
黛敏郎 – ミュージックコンクレートのためのX, Y, Z (1953)
武満 徹 – ルリエフ・スタティク(1955)
武満徹は世界的に有名な作曲家です。彼もミュージック・コンクレート作品を作曲しています。この作品後、沢山のミュージック・コンクレートを作っています。
音楽作品だけでなく、映画音楽の仕事もしていた武満はBGMでテープ音楽を使用しました。探せば色々あるのですが、小林正樹監督のこの映画を紹介。
映画: 小林正樹監督 『怪談』
ミュージック・コンクレートはポップミュージックへ
そうこうしてるうちに、ミュージック・コンクレートはポップ音楽にも影響を与えます。
あの有名なビートルズが作ったのがこの曲。ジョン・レノンが上のシュトックハウゼンや、オノ・ヨーコに影響を受け制作しました。ビートルズは、この曲以前にもテープループを作った曲などを作っていましたが、この曲がビートルズ初のミュジーク・コンクレート作品になります。
こんな風に現代音楽の作曲家が音楽の世界を開拓し、数十年遅れてポップ音楽にも広がる。。。そうなってるんですね。なので、最新の音楽を聴きたいならば、是非、現代音楽のコンサートに行きましょう。というのも、難解なイメージが強くて観客が少ないので、もっと盛り上がってくれないかな。。。と思いまして。
ビートルズは最高のバンド!
いずれにせよ、ビートルズは最高のバンド。いつ聴いても『やっぱり、凄いなあ。。。』ってなるバンドがビートルズです。もし、あまり聴いたことなかったら、超絶おすすめです。
テープループってなんだ?じゃあ、作ってみよう。
上でテープループって書きましたが、馴染みのない言葉だと思います。テープループというのはカセットテープを加工して、無限のループにして使う手法です。今はパソコンで何でも出来ますが、本物のテープを使うと音が独特になります。実際に作ってみました。
ミュージック・コンクレートの書籍
ミュージック・コンクレートは具体音を使うものですが、根本的な問いは『音とは?音楽って何だ?』っていうことです。今の現代音楽が一般の人にワケわかめやんけ!って言われるのは、そういう聴き方、考え方がないからなのかな?と思います。みなさんはミュージック・コンクレート好きですか?(ここまで、読み終えたあなたは好きな気がする)ということで、他の書籍も紹介しておきます。